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2009.08.02 Sunday

なぜ正直者は得をするのか―「損」と「得」のジレンマ

 利己主義者は早かれ遅かれ、確実に敗北する

 この本の要旨を簡単に述べると、こうなる。私たちは利己的な存在だと言われているが、日常生活を見るとそうでもない行動もしている。そして利己的な行動を取る人ばかりだと社会は立ち行かなくなるが、なぜかこれまでのところ、社会はうまくいっている。それはなぜか?

 理由は、確かに私たちは利己的な存在ではあるが、利己だけを求めることは自分の利益を最大化しないことを知っているだけ賢明なのである。だから利己を捨てるという戦略を取ることで、長期的な利益を得ているのだ、というお話。


 そして目の前の利益を追求しようとする賢明ではない利己主義者はやがて滅びていくし、利己主義者が跋扈する集団があると、その集団は滅びていく。そういうことを、歴史から心理学、あるいは文学や哲学からの引用で説明した一冊。そもそもが理想主義的な話にも取られかねないため、地道にロジックを組み立てているのが面白い。というか、著者の真面目さを感じて好感できる。

 まさに、この真面目で好感度が高い、というところがポイント。うすっぺらい内容の本を、しかも他人のパクリでたくさん出してベストセラーになっている人もいるが、そういう人はきっと長続きしないよね、というのがこの本の主張だろう。

 面白かったのは、実験を行うのに、利己的な集団を集めないといけない、さあ、どうする?ということ。答えは、経済学部の学生を集める、というもの。「人間は純粋に利己的な存在なんだ」ということは、経済学のベースになっている「人間は合理的な選択をするものだ」ということと一緒なので、そういう傾向があるのだという。

 これはちょっと怖い話でもある。「人間は純粋な利己主義者だ」と認識することによって、「だから私も損をしないために利己的に振舞うべきだ」ということになり、本来は長期的な成功モデルではない「利己主義者」にその人がなってしまう、というのだ。

 そういえば、ネットワークビジネスとか、あるいはインターネットの怪しげなビジネスなどのセミナーに出ると、こういう場面に直面することがある。人間は容易にダークサイドに落ち易いのだ。

 この本はさらに、「互恵不能原理」「暴露原理」「集団淘汰原理」という言葉を使って、一時的には得をする、利己主義者の末路を説明している。簡単に言うと、利己主義者は他人と協力して富を育てることができず奪い合うだけしかできず、また、どんなにうまく隠しても利己主義者であることはいずればれるようになっており、最後に結局は自分の周りの利益を食いつくし、自滅してしまう、というもの。問題はそのとき、まわりの他の利己主義者も他利主義者も一緒に滅ぼしてしまう、ということだという。

 そして小泉改革以降の日本が、この「利己主義者を前提とした社会」に変化してしまったというのが著者の主張。私は個人的には、既に気づいている人はたくさん居るので大丈夫、という楽観派ではあるけれども、確かに、怖い話もたくさんある。

 社会的ジレンマの解決方法がなかなか見出せないのも、もしかしたら、人間は利己的に振舞う存在である、という前提があったから、なのかもしれない。しかし幸運なことに、人間はもっと賢明で、利口だということだ。つまり、前提そのものが間違っていて、「人間は利己的な存在だから、他利的に振舞うのだ」ということ。

 考えて見れば、長く生き延びているヤクザの組織がなぜ仁義が厳しくて、自由なはずのボランティア組織でどうして利権争いが起きたりするのか、そういうことを考える上でのヒントになる一冊。これからの世界を生き抜く人たちのバイブルになりそうな一冊である。


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