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2004.12.31 Friday

新訳 GMとともに

『GMとともに』を読む

GMとともに
GMとともに
posted with 簡単リンクくん at 2004. 12.31
アルフレッド P.スローン,Jr.著
有賀 裕子訳
ダイヤモンド社
(2003.6)


 aguni です。今回はお約束通り『GMとともに』を読んでいきます。前回のフォードが明らかに起業家タイプの人だったのに対し、今回のスローン氏は実務家タイプ。まさにGMを育て上げた中興の祖。真面目な性格もあってか、ものすごくブ厚い本に仕上がっています。

 2003年に復刊された際の帯には、「経営書の最高傑作が待望の復刊!!」の文字が書かれています。なるほど、GMの歴史から始まり、自らが作り上げてきた業務・組織・資金・技術、すべてがこの本に詰まっています。ということはつまり、この本を読んで参考にならない分野の企業はおそらくないでしょう。そんなことを思わせる一冊に仕上がっています。

 フォードほどは知られていないウィリアム・C・デュラント氏。馬車の製造
会社を一代で築き、20世紀の初頭には国内のトップメーカーにまで押し上げ、1904年に倒産の淵にあったビュイック・モーター・カンパニーの経営権を掌握して4年後にはアメリカを代表する自動車メーカーに再生。今ならカルロス・ゴーンかと言われるような天才でした。持株会社としてGMを設立、ビュイック、オールズ・モーター・カンパニー、キャディラック・オートモビルを皮切りにいくつもの会社を傘下に収め、自律的な経営をさせました。銀行借入や株式交換などの方法で1910年にはグループ企業は25社。まだまだ自動車市場が立ち上がり始めたこの時期に、垂直統合と規模の経済性を発揮させる方策に出ようとしたのです。(まだアメリカの道路もほとんど舗装されていなかった時代です!)この先駆性と実行力には驚かされます。

 しかし、このデュラントの取った戦略は、結局、経営権を銀行に奪われる結果を招きます。(古今東西、銀行が経営権を握って成功した商売はないのですが、それでも銀行というものは、そういう行動に出るもののようです。)ただし、その成果があってGMは高配当企業になりました。(投資家が経営している企業なのですから、当たり前といえば当たり前ですね。)ただし、この頃にはデュラントには経営権はなくなりつつあり、銀行の息がかかった堅実路線のナッシュの追い出しかかり、成功してしまいます。なんと、自動車の軽量化プロジェクトに取り組んでいたシボレーに協力して新会社を設立して成功させ、この株を以ってGM株に交換していき、再び支配権を握ってしまったのです。そこにさらにデュラントは化学工業の大企業、デュポンの出資を引き出し、再び経営権を掌握してしまうのです。そして再び拡大路線に走るGM。後から考えて、スローン氏はこのように書いています。

「長い歳月をへた今日振り返ってみると、あの時に拡大を進めたのは、少なくとも自動車開発に関するかぎりは、有意義で望ましいことだったといえる。自動車は単価が高く、しかもマスマーケット向けに販売しようとしていたため、多大な資本投下が必要とされた。この点はデュラントとラスコブは早くから見通していたのである。」(P35)

 しかし、とスローンは言います。

「だが、こと経営管理に関するかぎり、やはり厳しい視線を向けないわけにはいかない。」(P35)

 さらに、

「デュラントについては、何と記せばよいのだろうか。もちろん、心から尊敬している。ほとばしるような才能、イマジネーション、懐の深さ、誠実さ。GMへのゆるぎない忠誠。ラスコブやピエール・S・デュポンは正しい−GMに魂を吹き込み、ダイナミックな成長を可能にしたのは、まぎれもなくデュラントその人である。しかしその一方、経営実務では随所に気まぐれさを発揮し、何もかも自分で背負い込んでしまうのであった。こちらがようやくデュラントのスケジュールを押さえて重要な事項についてお伺いを立てても、往々にして、その場の思いつきで判断を下された。」(P33)

 とまあ、かなり手厳しいです。結局、デュラントは私財をぶっこんで事業の拡大に務めていたところ、景気が低迷。アメリカが経済不況に突入すると、デュラントの個人資産の方が持たなくなってきてしまいました。そこでデュポン社が救済に乗り出すとともに、デュラントは社長退任へと追い込まれたのです。

 で、ここからがスローンの登場と、GM再生の物語へと本編は続くわけですが、その前にいくつかのポイントを整理しておきたいと思います。

・創業者のデュラントは多品種量産型の自動車会社を考えていた。
・GMはいくつかの自動車会社・部品メーカーの持ち株会社として設立された。
・デュラントは技術革新で経営権を奪い返した。
・会社は大きくなっても、経営や管理については何もなかった。
・景気の変動に左右されて、会社が危機に陥った。

 そしてこの素質がもとになって生まれた危機を克服することで、GMの経営技術というのは非常に進歩していったわけです。起業家の退場。その後は実務家の登場です。

 まず、カリスマ経営者デュラントを失ったGMは、急速に会社を作る必要に迫られました。いくつもの会社を買収してできた巨大企業。資本を投下し続けたデュポン社から来た、経営能力はあるが自動車業界を知らない社長。この二つの要素があって、そこに、この本の著者が書いた一冊の小冊子が元で、これまでにない会社の組織が生まれました。事業部制の誕生です。これは組織をコントロールするとともに、財務面でもコントロールするという、まったく新しい組織体でした。

 簡単に言うとこういうことです。各事業部が同じ会社の中で別別に動く。各事業部長は権限を与えられる。と同時に、財務面でも管理を要求される。どこかの部署が頑張っているので、他の部署がサボっていてもいい、という組織にはしない。一見、管理コストを増大させるかのようなこの手法は、寄せ集めの大所帯であった当時のGMの中からでしか生まれなかった発想だと思えます。この事業部制が松下や京セラなど、日本のものつくりの会社組織を作る上で、大きな影響を与えていったわけです。

 またポイントとなる部分を引用しておきます。

「GMは第一次世界大戦後に拡大路線を取ったのが原因で、組織にひずみを抱えるようになっていた。その打開策を探ろうとして生まれたのが『組織についての考察』である。」(P56)

「一九一八年から二〇年まで、GMはひたすら拡大を続けたが、この間私は?中身と器?のギャップを感じるようになった。事業が日うろ狩りゆくのに、組織がついていけなかったのである。私の中で確信が育っていった−企業がうまく拡大を続けていくためには、組織を充実させることが欠かせない。しかも、誰もこの重要な点に注意を払っていないのは明らかだった。」(P57)

 組織と財務。事業相互の関係と予算要求のルールの策定。まだ不況にさらされる前のGMで作成された小冊子を元に、GMは再生を果たしたわけです。(もちろんそう簡単でなかったからこそ、この本の分厚さがあるわけです。)

 非常に興味深いのは、おそらくGMの繁栄は、スローンが経営をすることになったからでしょうし、おそらく小冊子がなければスローンが経営することはありえなかっただろう、ということです。そしてまた、決してスローンはGMの歴史と現実以外のところからこの小冊子を構想してはいないわけで、その混乱したGMを作り出したのが前回紹介したデュラントであったということです。この本の帯でも書かれていますが、ドラッカーがスローンを「プロフェッショナル・マネージャーの規範」と呼ぶように、彼はプロの経営者であり、逆にデュラントは企業家であったのだなぁ、と思うのです。

 さて、GMを次に襲ったのが、R&Dについての考え方です。革命的な新技術、空冷式エンジンの夢に取り付かれた技術者ケッタリングの夢に、経営トップが冷静な判断ができず、2年半もの時間を使ってしまった、という事件がGMを襲います。スローンはこう書いています。

「GMは経営のあり方を見直し、市場での戦い方も決めた。次はそれらを実行に移すのが当然の流れだろう。だが、そうはならなかった。新体制は、本格的に船出しようとした矢先に二年半にもわたって、みずから定めた原則を守れなかったばかりか、踏みにじってしまったのである。」(P83)

 簡単に言うと、新しい技術は市場を席捲すれば、確かに驚くべき成長を遂げることができるかもしれない。しかしGMはこのとき、できてもいないエンジンの可能性に全社の勢力をかけてしまい、売上を伸ばせなかった。これは本末転倒。GMのドメインは画期的なエンジンを開発することではなく、きちんと動く自動車を作り、販売することなのだ。このことに気づいたときのことを、スローンは以下のように記述しています。

「エンジンが水冷式でも銅冷式でもよいのだ。なぜなら、銅冷式を水を必要としないという大きな特長があるものの、その他の点では二つの方式に決定的な違いはないからである。」(P108)

 つまりは今、流行りのMOT(技術経営)の先駈けでしょう。彼はこうも書いています。

「銅冷式エンジンはGMに大きな教訓を残した。さまざまな組織が歩調を合わせること、エンジニアリングとその他の機能をうまく連携させることがいかに重要かを教えてくれたのである。」(P108-P109)

 この事件があって、GMはやっと新しい経営者を迎えることになります。スローンが経営者となり、自らが考え、作り出した組織を率いることになる
のです。

 最後に、GMのマーケティング戦略について語ってみようと思います。つまり、GMが自動車という商品について採用した競争戦略とチャネル戦略についてです。おおざっぱに言うと、商品の売り方、つまりはマーケティング戦略について、ということになります。章立てで言えば第16章を中心に読んでいきます。

 この本によれば、フォード社が独自の戦略、即ち、同モデルの大量生産によって市場を拡大していく間、チャレンジャーであったGMは以下のような施策で市場を開拓していきます。

・割賦販売、そして消費者金融への進出
・中古車の下取りと年次モデルチェンジ
・クローズド・ボディ
・年次モデルチェンジ

 このうち上の二つは市場を開拓するのに多いに役に立ち、下の二つはフォード車には真似のできない要素として、GMの市場拡大に多いに役に立ちました。ただしここまでは商品によるマーケティング戦略であり、実際の販売という意味では、「ディーラー組織の編成」というテーマが重要な戦略でした。スローンはそのディーラーを育てることの重要性をこう語っています。

「ところが二〇年代初めの業界通念では、メーカーは製品、価格、広告、プロモーションに専念すべきで、流通に関わるその他諸問題はディーラーに任せておけばよいとされていた。ディーラーの役割を最小限にとどめようとする人々もいた。こうした人々は、顧客がディーラーのショールームに足を踏み入れる時には、すでにほぼ心が決まっているだろうと推察して、ディーラーが社内や市場でどれだけ複雑な問題を抱えているかは、メーカーには無関係だと見なされていたのだ。」(P314)

 スローンはディーラー網を安易な販売の場から強力な販売網へ作り替えようとしましたが、その道のりは簡単ではなかったようです。

「製品を経済的に流通させるとともに、安定したディーラー網を築き上げる。
 流通分野のこの二つの目標を達成するには、何年にもわたって知恵を絞り、汗を流さなければならなかった。」(P316)

 これは比喩的な表現ではなく、実際、スローン自身も汗を流したようです。

「一九二〇年代初めから三〇年代初めにかけて、私はみずからディーラーを訪問するのを習慣とした。列車の個室をオフィスにしつらえて、数名の部下とともにアメリカの都市という都市をほぼくまなくめぐり、日に五から一〇ほどのディーラーを訪問した。(中略)これを実践したのは、GMの担当部署がどれほど有能であっても、やはり私自身がディーラーと接することに、ことのほか大きな価値があると考えたからだ。」(P317)

 こうして得たフィールド調査と、トップが何を大事に考えているかを示す行動から、GMのディーラー網は整備されていきました。システム・ワークフロー・契約関係など、それはそのままGMの販売量拡大に貢献したことは想像に難くありません。

 驚くべきことに、このスローンの著書は、日本でも現在は主流となっている自動車の販売手法の誕生がそのまま描かれていることです。もちろん、販売チャネルをどのように分割するかとか、そういった手法については洗練されてきてはいるでしょう。しかし、基本はまさにこのスローンの方針が作り出したわけです。これはすごい発明だったといわざるを得ません。

 スローンの経営によってGMが成長し、大きくなったのは、ひとえに彼が従業員であれ取引先であれ、人の使い方が上手だった、ということに尽きるのではないか、とこの本を読んで思います。「経営とは何か」というタイトルで書かれた章(第23章)で、彼はこう語っています。

「なぜある経営が成果を上げ、他がつまずくかは、容易には述べられない。(中略)とはいえ、これまでの経験から私は、事業に責任を負う人々にとっては二つの要素が重要だと考えている。意欲と機会だ。機会は主に分権化をとおしてもたらされる。(中略)権限の分散と集中をうまくバランスさせ、分権化を進めながらも全体の足並みを揃え続けるのが、優れた経営の秘訣である。」(P483)

 『GMとともに』。ドラッカーが「これ以上の経営書を知らない」という言葉を残しているように、この本には業界の誕生から産業の成長の歴史、とある企業による業界再編と組織作りの歴史、そしてあるプロフェッショナル・マネージャーの半生が語られています。

 かなり分厚い本ではありますが、それだけの価値はあります。新しい年を迎えたあなたの書棚にも、一冊いかがでしょうか?


コメント

こんにちは。

MBA学生のMakkoです。

「GMとともに」で検索してきました。

私はこの本には、とても感動しました。

「GMとともに」の感想をブログに私も書きましたので、もし、良かったら遊びに来て下さい。

http://ameblo.jp/makoto-at/entry-10591720017.html
2010/07/16 12:07 AM by Makko

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